大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成4年(ワ)2220号 判決

本訴原告(反訴被告)

森口智裕

本訴被告(反訴原告)

魚井昇

主文

一  本訴被告(反訴原告)は本訴原告(反訴被告)に対し金五九三万四八三四円、本訴原告(反訴被告)は本訴被告(反訴原告)に対し金一〇一万二九三三円及びこれらに対する平成二年三月二六日からいずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  本訴原告(反訴被告)のその余の本訴請求、本訴被告(反訴原告)のその余の反訴請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用のうち、本訴について生じたものはこれを三分し、その二を本訴被告(反訴原告)の負担とし、その余を本訴原告(反訴被告)の負担とし、反訴について生じたものはこれを二二分し、その二一を本訴被告(反訴原告)の負担とし、その余を本訴原告(反訴被告)の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  本訴

本訴被告(反訴原告)(以下、単に「被告」という。)は本訴原告(反訴被告)(以下、単に「原告」という。)に対し、金八六一万二五三円及びこれに対する平成二年三月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴

原告は被告に対し、金二二五一万一八五円及びこれに対する右同日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が普通乗用自動車(以下「原告車」という。)を運転して本件交差点を右折中、対向直進してきた被告の運転する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)と衝突し、原告と被告が負傷し、双方の車両が破損した事故について、原告が被告に対し(本訴請求)、被告が原告に対し(反訴請求)それぞれ自賠法三条、民法七〇九条に基づき損害賠償を請求したものである。

一  争いのない事実

1  交通事故の発生

日時 平成二年三月二五日午前一時ころ

場所 兵庫県明石市二見町西二見一六四四の一

態様 原告が原告車を運転して本件交差点を右折中、対向直進してきた被告の運転する被告車と衝突した。

2  損害の填補

被告は、本件事故に関し、三〇万円の支払を受けた。

二  争点

1  原告及び被告の民法七〇九条に関する過失の有無、自賠法三条但書による免責の可否(原告は、被告が赤信号を無視し、猛スピードで本件交差点に進入したため、右折青矢印の信号に従つて右折していた原告車に衝突したもので、原告には民法七〇九条の過失はなく、自賠法三条但書で免責されると主張する。これに対して、被告は、被告が青信号に従つて本件交差点を直進中、信号を無視した原告車が対向右折してきたため、本件事故が発生したもので、原告の一方的過失による事故であると主張する。)

2  原告の損害額(治療費、付添費、入院雑費、通院交通費、休業損害、慰謝料、物損、弁護士費用)

3  被告の損害額(治療費、入院室料差額、休業損害、慰謝料、物損)(被告は、被告が本件事故当日から入院七九日、通院一年五カ月の治療を受けたことを前提に損害を主張する。これに対して、原告は、被告が入院中、外出、外泊を繰り返しており、右退院後も長期にわたつて通院する必要性がなかつたと主張するとともに、被告の主張する収入額にも疑問があり、治療費の単価も不当に高額であると主張する。また、原告は、被告車の初度登録から本件事故までの経過期間からすると、被告の主張する物損の金額は過大であると主張する。)

4  過失相殺(予備的主張)

第三争点に対する判断

一  証拠(甲一ないし三、五、六、一一ないし一六、一九ないし二五、乙一の1ないし7、二の1ないし6、証人梅本眞実、原告、被告各本人、調査嘱託)によれば、以下の事実が認められ、被告本人尋問のうち、右認定に反する部分は採用できない。

1  本件事故状況

本件事故現場は、別紙図面記載のとおり、東西に伸びる道路(以下「東西道路」という。)と南北に伸びる道路(以下「南北道路」という。)とが交差する信号機の設置された交差点で、東西道路側にかなり幅の広い中央分離帯が設置されていることから、交差点内は、かなり広く、また、交差点の南北幅が東西幅の二倍程度となつている。本件事故現場付近の制限速度は、時速五〇キロメートルであり、東西道路は、中央分離帯上にある植木等のため、左右の見通しが悪くなつている。本件交差点の信号表示は、一サイクル一二〇秒で、東西道路の車両用信号は、青五七秒、黄四秒、赤で右折青矢印四秒、赤五五秒(当初の三秒と最後の三秒は全赤)の順に切り替わり、南北道路の車両用信号は、赤七一秒(最初の三秒と最後の三秒は全赤)、青四五秒、黄四秒の順に切り替わる。本件事故当時、被告は、右制限速度をかなり越える速度で被告車を運転して東西道路の西行車線を西進して、別紙図面の〈1〉地点(以下、別紙図面上の位置は、同図面上の記号のみで表示する。)を通過し、本件交差点の対面信号が赤信号を表示していたのに、本件交差点を直進通過しようと本件交差点内に進入したところ、〈×〉地点付近で、被告車の前部が、対向右折してきた原告の運転する原告車の左側面に衝突した。右衝突とほぼ同時に、南北道路の車両用信号が赤信号から青信号に変わつた。右衝突後、被告車は〈×〉地点から約三九・七メートル離れた〈2〉地点に停止した。他方、原告は、前照灯を点灯した原告車を運転して東西道路の東行車線を東進し、〈ア〉地点付近で時速四〇キロメートル程度に減速したうえ、本件交差点の対面信号が赤で右折青矢印信号を表示している時点で、本件交差点内に進入し、〈ア〉地点、〈イ〉地点(〈ア〉地点から約三一メートルの地点)と順次進行し、〈×〉地点(〈イ〉地点から約九・六メートルの地点)に達したところで、対向直進してきた被告車と衝突した。右衝突後、原告車は、〈×〉地点から約一三・二メートル離れた〈ウ〉地点に停止した。右衝突の結果、原告車は、左側面が大きく凹損して大破し、被告車は、前部バンパー、ボンネツト等がかなり凹損した(被告は、被告車が青信号に従つて本件交差点を直進中、信号を無視した原告車が対向右折してきたため、本件事故が発生したと主張するが、右に認定した本件交差点の信号表示からすると、被告車の対面信号が青信号である場合、原告車の対面信号も青信号となるから、被告の右主張は本件交差点の信号表示と矛盾していると解される。また、本件事故当時、本件交差点南詰の停止線付近で信号待ちのため北向きに停止していた自動車の助手席に同乗していて本件事故を目撃した証人梅本眞実は、右停止中に、本件交差点西詰の東行三車線のうち中央車線の停止線付近に停止している車両が一台あり、その停止車両の右側の〈ア〉地点を原告車が通過して本件交差点内に進入し、本件事故とほぼ同時に、本件交差点北詰の対面信号を見たところ、ちょうど青信号に変わつた旨証言しているが、右証言は、具体的、合理的であることから、十分信用できるというべきである。また、本件事故当時、被告車が制限速度をかなり越える速度で進行していたことは、右に認定した衝突後の原告車と被告車の各停止位置、各損傷状態から明らかである。)。

2  原告の受傷及び治療経過等

原告は、本件事故当日、昏睡状態で西江井島病院に搬送され、レントゲン検査、CT検査等の結果によつて、脳挫傷、下顎骨骨折、左大腿骨骨折、左第四ないし一一肋骨骨折、誤飲性肺炎と診断され、挿管、酸素吸入、輸血、輸液等の治療が開始され、その後、意識状態に著変がなく、経過観察が行われたが、原告の家族の希望で、平成二年三月二七日に加古川市民病院に転医した。そして、原告は、左大腿骨骨折、脳挫傷、左肋骨骨折の傷病名で加古川市民病院に同年七月一七日まで入院し(本件事故から七日間昏睡状態が継続)、その間、同年六月六日に左大腿骨の骨接合術を受け、その後、右病院で通院治療を受けたが、平成三年九月三日から同月八日まで右病院に再入院して、左大腿骨の抜釘術を受け、以後、同年一一月二八日まで右病院に通院(実日数合計四〇日)して治療を受けた。原告は、加古川市民病院で治療中、脳内に少量の出血が認められたが、保存的治療で軽快した。加古川市民病院の医師は、原告の傷害が、平成三年一一月二八日に症状固定した旨の後遺障害診断書を作成した。右症状固定日と診断された当時、原告には、しゃがみ込んだ際に左大腿に痛みの自覚症状があつたが、脳外科的に異常は認められなかつた。なお、原告は、本件事故によつて、前歯三本を喪失した。

3  被告の受傷及び治療経過等

被告は、本件事故当日、半昏睡状態で、たずみ病院に搬送され、頸髄損傷、脳挫傷、頭部外傷Ⅲ型、四肢知覚異常、運動障害、外傷性左母指外転筋腱鞘炎の傷病名で平成二年六月一一日まで入院し、平成三年一一月一一日まで右病院に通院(実日数六六日)して治療を受けた。CT検査、レントゲン検査によれば、被告には、骨損傷は認められず、また、被告は、右治療期間中、本件事故の翌日に意識が回復し、第三頸髄節の知覚過敏、第四頸髄節から仙髄節までの知覚障害と四肢運動筋力低下が存在したが、運動障害は徐々に改善し、知覚過敏帯も三週間で軽減し、運動障害、知覚障害ともに改善傾向を示したため、右のとおり退院した。そして、右通院中、被告は、頸部の疼痛とこれに伴う吐き気、頭痛に対して対症的な治療を受けた。右通院中の実通院日数は、平成二年六月一二日から同年八月三一日までが二六日、同年九月一日から同年一二月三一日までが二三日、平成三年一月一日から同年四月三〇日までが七日である。また、右通院中の平成三年四月二二日当時、右病院の医師は、被告について、神経学的には症状固定の状態にあると判断していた。なお、被告は、右入院期間中、平成二年五月一二日、一九日、三〇日、三一日、同年六月一日、三日、六日、七日、八日にそれぞれ外泊し、また、同年四月二〇日、同年五月二日、四日、一四日、一六日、一九日、二四日、二九日、同年六月一日、二日、六日、七日、八日、九日には看護婦による検温の際、いずれも病室にいなかつた。

二  原告及び被告の民法七〇九条に関する過失の有無、自賠法三条但書による免責の可否について

前記一1(本件事故状況)で認定したところによれば、原告車が本件交差点に進入しようとした際、本件交差点西詰の東行三車線のうち中央車線の停止線付近には、既に停止している車両が一台あつたうえ、本件事故発生とほぼ同時に本件交差点北詰の信号が青信号に変わつており、これに、本件交差点内における原告車の前記進行速度、衝突地点までの進行距離をも併せ考慮すれば、原告車は、対面信号が赤で右折青矢印信号を表示している最中に本件交差点内に進入し、右折開始後間もなく、右折青矢印信号が消えて全赤の表示に変わつた後も右折を継続していた際に、赤信号を無視して対向直進してきた被告車と衝突したと解するのが相当である。そうすると、赤信号を無視し、制限速度をかなり越える速度で本件交差点を直進しようとして本件事故を発生させた被告には、民法七〇九条、自賠法三条に基づく損害賠償責任があるといわなければならない。また、右のような信号関係と、本件交差点の南北幅がかなり大きく、東西道路にある中央分離帯上の植木等のため左右の見通しが悪い交差点であることからすると、原告が本件交差点を右折中に右折青矢印信号が消えて、全赤の表示に変わつてからも、本件交差点内でかなりの距離を走行していたことになるから、このような右折状況においては、赤信号を無視して対向直進してくる車両の有無、動静に十分注意して右折進行すべき注意義務があつたといわなければならず、右注意義務を十分尽くさないまま右折を継続して本件事故を発生させた原告にも過失があると解されるので、原告についても、民法七〇九条、自賠法三条に基づく損害賠償責任があると解するのが相当である。

三  原告の損害

1  治療費 五四万六三二〇円(請求同額)

原告は、前記一2(原告の受傷及び治療経過等)で認定した治療により、五四万六三二〇円の治療費を要した(甲三、一六、一九、原告本人)。そうすると、治療費に関する原告の請求は理由がある。

2  付添費 五一万七五〇〇円(請求五七万五〇〇〇円)

前記一2(原告の受傷及び治療経過等)で認定した原告の本件事故当日から平成二年七月一七日までの入院期間中、排泄の世話などのため、原告の家族が付き添つて看護をした。また、原告が本件事故当初に入院した西江井島病院の医師は、付添看護を要すると判断していた(甲二、二一)。そうすると、本件事故と相当因果関係のある付添費は、五一万七五〇〇円(入院期間一一五日について一日当たり四五〇〇円を適用)となる。

3  入院雑費 一四万五二〇〇円(請求同額)

前記一2(原告の受傷及び治療経過等)で認定した原告の症状、治療経過からすると、本件事故と相当因果関係のある入院雑費は、一四万五二〇〇円(入院期間一二一日について一日当たり一二〇〇円を適用)となる。

4  通院交通費 一万六〇〇〇円(請求同額)

右通院当時、原告宅は、兵庫県加古川市加古川町粟津にあり、加古川市民病院は、同市米田町平津にある。原告宅から、バスを利用して右病院へ通院するための往復交通費は、通院一回当たり四〇〇円である(甲五、七、原告本人)。そうすると、本件事故と相当因果関係のある通院交通費は、一万六〇〇〇円(通院実日数四〇日に通院一回当たり四〇〇円を適用)となる。

5  休業損害 一五六万八五二三円(請求同額)

原告は、本件事故当時、富士通株式会社明石工場に勤務し、平成元年分の給与として三〇九万一六八一円を支給されたが、平成二年分の給与は、本件事故による休業のため、一五二万三一五八円の支給にとどまつた(甲九、一〇、一七、原告本人)。そうすると、本件事故による原告の休業損害は、右各金額の差額である一五六万八五二三円となる。

6  慰謝料 二三〇万円(請求三五〇万円)

前記一2(原告の受傷及び治療経過等)で認定した原告の症状、治療経過、その他一切の事情を考慮すると、慰謝料としては、二三〇万円が相当である。

7  物損 一七〇万円(請求同額)

原告車は、初度登録が平成元年一一月の車両であり、本件事故当時の時価は一七〇万円である(甲一一、一二、原告本人)。右事実に、前記一1(本件事故状況)で認定した原告車の損傷の程度を併せ考慮すれば、原告は、本件事故により、一七〇万円の車両損害を受けたと解すべきである。

8  弁護士費用 五〇万円(請求同額)

原告の請求額、前記認容額、その他本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、原告の弁護士費用としては、五〇万円が相当である。

四  被告の損害

1  治療費 二〇六万二六九一円(請求三二九万三一八六円)

前記一3(被告の受傷及び治療経過等)で認定した被告の受傷部位、症状、治療経過に、入院中の外泊状況、看護婦による検温時の不在状況からすると、本件事故と相当因果関係のある入院期間は、本件事故当日から二カ月である平成二年五月二四日までに限定すべきである。また、前記一3の認定事実によれば、たずみ病院の医師は、平成三年四月二二日当時、被告が神経学的には症状固定の状態にあると判断していたのであるから、被告は、同月末日には症状固定の状態にあつたと解されるので、本件事故と相当因果関係のある通院期間は、平成三年四月末日までに限定すべきである。さらに、被告が治療を受けたたずみ病院の診療報酬額については、一点単価二五円で算出されている(乙二の1ないし6)が、被告の前記受傷部位、症状、治療経過に、被告の右治療が自由診療であり、健康保険診療では一点単価一〇円である(甲三、一六)ことを総合考慮すれば、一点単価二〇円が相当である。

右判断によれば、本件事故と相当因果関係のある被告の治療費に関する診療点数は、次のとおり合計九万九三九七点となる。

(一) 入院分 八万五三八一点

入院治療に関する診療報酬明細書(乙二の1)によれば、平成二年三月分が二万三一八二点、同年四月分が三万四二二二点、同年五月分が二万九二六九点、同年六月分が一万六一二点(合計九万七二八五点)となつているが、このうち、前記のとおり相当因果関係の認められない同年五月二五日から同年六月一一日までの入院料部分は控除すべきであり、同年五月二五日から同月三一日までの七日間が、同年五月中の入院料二万七三七点について日割計算した四六八二点(小数点以下切り捨て。以下同じ。)で。同年六月中の入院料が七二二二点である(合計一万一九〇四点)から、右九万七二八五点から右一万一九〇四点を控除した八万五三一八点が本件事故と相当因果関係のある入院治療点数となる。

(二) 通院分 一万四〇一六点

前記のとおり、本件事故と相当因果関係の認められる通院治療に関する平成三年四月末日までの通院治療に関する診療報酬明細書(乙二の2ないし4)によれば、平成二年六月一二日から同年八月三一日までが八八八五点、同年九月一日から同年一二月三一日までが四一〇五点、平成三年一月一日から同年四月三〇日までが一〇二六点(合計一万四〇一六点)である。

そうすると、本件事故と相当因果関係のある被告の治療費は、一九八万七九四〇円(右九万九三九七点に一点単価二〇円を適用)に、前記(一)(二)記載の各診療報酬明細書の「その他」「診断書料」「明細書料」記載の金額合計七万四七五一円を加えた二〇六万二六九一円となる。

2  入院室料差額(請求二三万一七五〇円)

たずみ病院の医師は、被告の入院期間のうち、入院当初から平成二年四月二二日までの二八日間について、症状上、個室を要したことを認める旨の同年六月一五日付診断書(乙一の1)を作成しているが、同年四月二三日以降の入院について個室を要したことを認めるに足りる証拠はなく、被告が請求する入院室料差額に対応する入院期間は、同年四月二三日から同年六月一一日までのものである(乙三の1ないし5)ことからすると、入院室料差額に関する被告の請求は理由がない。

3  休業損害 二一〇万一九七七円(請求一四九八万五二四九円)

被告は、土木業を営む株式会社西昇建設の実質的な代表者であり、右会社では営業を担当していた。右会社は、昭和六〇年ころに設立され、本件事故当時の従業員数は七、八名であり、事務所は被告宅にあつた。本件事故以前、右会社の法人税の申告はされていなかつた。被告は、妻の実家が営む前田製麺で製造した麺類の配達に従事し、昭和六三年一二月一五日から平成二年三月一五日までの間に、合計五五四万七二〇〇円の給与を支給された。被告は、昭和二〇年三月三一日生まれ(本件事故当時四四歳)である(甲一、乙六の1ないし15、被告本人)。

ところで、被告は、右会社における休業損害の証拠として、右会社作成名義の休業損害証明書(乙五)を提出するが、右に認定した右会社の経営規模、事務所の所在地、同会社における被告の地位からすると、右休業損害証明書の信用性に疑問があるうえ、他に右休業損害証明書を裏付けるに足りる証拠がないことからすると、右休業損害証明書に記載された給与額に基づく被告の休業損害の主張は採用できない。

しかし、右に認定した被告の前田製麺における就労状況と給与額、株式会社西昇建設における被告の地位、担当業務からすると、本件事故当時、被告は、平成二年賃金センサス男子労働者学歴計四〇歳から四四歳の平均年収六〇二万六九〇〇円(三六五日で割つた一日当たりの金額は一万六五一二円。円未満切り捨て、以下同じ。)の収入を得る高度の蓋然性があつたと解すべきである。

さらに、前記一3(被告の受傷及び治療経過等)で認定した被告の症状、治療経過に、前記四1(治療費)における判示内容を併せ考慮すれば、被告は、本件事故により、前記四1で判示した本件事故と相当因果関係のある入院期間である本件事故当日から平成二年五月二四日までの六一日間について一〇〇パーセント就労することができなかつたと解され、また、その後の期間について、前記一3で認定したとおり、平成三年一月からの通院頻度が、それ以前の平成二年六月一二日から同年一二月三一日までの間における通院の頻度よりも大幅に低くなつていることをも併せ考慮すれば、平成二年五月二五日から同年一二月三一日までの二二一日間について三〇パーセント就労することができなかつたと解され、それ以降の通院期間については、就労が制限されていたとは解されない。

そうすると、本件事故と相当因果関係のある休業損害は、二一〇万一九七七円(前記一日当たりの収入額一万六五一二円に前記各就労不能日数と各就労不能率を適用)となる。

4  慰謝料 一四〇万円(請求三〇〇万円)

前記一3(被告の受傷及び治療経過等)で認定した被告の症状、治療経過に、前記四1(治療費)、3(休業損害)における判示内容、その他一切の事情を考慮すれば、慰謝料としては、一四〇万円が相当である。

5  物損 一〇〇万円(請求同額)

被告車は、初度登録が昭和六一年一一月の車両であり、本件事故当時の時価は一〇〇万円である(甲一一、一二、被告本人)。右事実に、前記一1(本件事故状況)で認定した被告車の損傷の程度を併せ考慮すれば、被告は、本件事故により、一〇〇万円の車両損害を受けたと解すべきである。

五  過失相殺

前記一1(本件事故症状)の認定事実に、前記二(原告及び被告の民法七〇九条に関する過失の有無、自賠法三条但書による免責の可否について)の判示内容を併せ考慮すれば、本件事故発生について、原告には二〇パーセントの、被告には八〇パーセントのそれぞれ過失があると解される。

そうすると、原告については、六七九万三五四三円(前記三1ないし7の損害合計額)に原告の右過失割合を適用した過失相殺後の金額は、五四三万四八三四円となり、被告については、六五六万四六六八円(前記四1、3ないし5の損害合計額)に被告の右過失割合を適用した過失相殺後の金額は、一三一万二九三三円となる。

六  以上によれば、原告の請求は、五九三万四八三四円(前記過失相殺後の原告の損害額五四三万四八三四円に前記三8の弁護士費用五〇万円を加えたもの)とこれに対する本件交通事故発生の翌日である平成二年三月二六日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、被告の請求は、一〇一万二九三三円(前記過失相殺後の被告の損害額一三一万二九三三円から前記争いのない損害填補額三〇万円を控除したもの)とこれに対する右遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 安原清蔵)

別紙図面

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例